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東京高等裁判所 昭和32年(ラ)416号 決定

理由

原審相手方市村勝蔵は、市村久子外二名の後見人として被後見人に代つて金物商を営んでいるのであるから、その営業資金調達のため無尽に加入し抗告人から借り受けた本件金銭債務もまた右被後見人等の債務であつて、これを担保するため右被後見人等所有不動産の上に本件抵当権を設定したことは、後見人と被後見人と利益相反する行為に当らないと抗告人は主張する。

証拠を綜合すれば、市村勝蔵の金物営業はもと同人の兄で被後見人等の亡父に当る市村英一の経営に係り、その死亡後は遺児が幼少で営業を継続することができなかつたので、市村勝蔵が東京都の勤務先を辞して妻子とともに帰郷し、同人及び英一の母並びに英一の遺児である原審相手方たる女子三名と同居して同一場所で右金物商の営業を継続し、右遺児三名の後見人となつたものであることが認められるけれども、その営業名義は市村勝蔵に変更され、第三者との取引も市村勝蔵自身の名義でなされ、事業税も市村勝蔵名義で納付されていることが証拠により明らかである以上、右営業は市村勝蔵の営業と認めるのを相当とする。

また証拠によれば、本件競売申立債権は、元来は市村勝蔵がその金物商の営業資金調達のため自己の名を以て加入した無尽講に端を発したもので、同人は自ら落札した右無尽講の掛戻債務を完済することができず、その後右無尽講は継続不可能に陥つたので、その整理のため抗告人において市村勝蔵のため昭和二十八年十一月十七日及び同年十二月二十九日の二回に亘り本件競売不動産を担保とする約定で右掛戻金債務の立替払をなし、かつ別に同人に現金をも交付してその合算額八十万円を以て抗告人と市村勝蔵との間の金銭消費貸借の目的としたが、その後、右不動産が市村勝蔵の被後見人等の所有である関係上昭和二十九年七月二十日市村勝蔵において右被後見人等の法定代理人として右消費貸借の借主を本件競売申立債権のとおり被後見人等に変更し右債務を担保するため右不動産の上に抗告人のため本件抵当権を設定する契約を締結したものであることが認められる。

右のように後見人の債務につき債務者を被後見人に変更し被後見人所有不動産の上に抵当権を設定するような行為は、まさに民法第八百六十条にいう後見人とその被後見人と利益が相反する行為に当るから、後見監督人又は特別代理人の代理によらないで、後見人たる市村勝蔵自らその被後見人等を代理してなした右行為は無効である。

従つて抗告人は債務者兼物件所有者である市村久子外二名に対しては本件競売申立債権並びに抵当権を有しないので、本件競売申立は不適法であり、これを却下した原決定は相当であるから、本件抗告は理由がないとしてこれを棄却した。

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